睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠中に呼吸が止まる無呼吸や呼吸回数が減る低呼吸を繰り返す疾患です。無呼吸や低呼吸を何度も起こすことで血中酸素濃度が大幅に低下して脳を含む全身に酸素不足が起こりますし、無呼吸時には胸腔の圧力が低下して心臓に負担をかけます。また、無呼吸時に脳が覚醒することで交感神経が優位になって血圧が上がるため、心臓や血管への負担が増加します。そして、睡眠が何度も中断されることで睡眠の質が下がり、日中に強い眠気や集中力低下を起こすようになります。実際に睡眠時無呼吸症候群が原因となった重大な事故が何度も報道されています。日本には潜在的な睡眠時無呼吸症候群の患者数が200万人いると指摘されています。高血圧や糖尿病といった生活習慣病を合併することが多く、深刻な心疾患や脳血管疾患の発症リスクが上昇してしまうため、生命予後に大きな影響を与える可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群の合併症
心臓病
冠動脈が狭くなって治療を受けた方の追跡調査では、睡眠時無呼吸症候群がある場合その後の心血管狭窄や閉塞などの発生率が有意に高くなったことが報告されています。睡眠時無呼吸症候群を発症していない方に比べて、発症している方は術後に冠動脈血流悪化が起こりやすい傾向があるということです。
脳血管障害
脳血管障害を起こした方を対象に3年間にわたって行った追跡調査では、重症の睡眠時無呼吸症候群がある場合の脳卒中・脳梗塞発症リスクが3倍以上になると報告されています。
糖尿病
無呼吸の重症度が高くなるのに比例して、糖尿病合併の割合も増えることがわかっています。
高血圧
日本で行われた大規模な調査で、高血圧の方は睡眠時無呼吸症の頻度が高いこと、そして睡眠時無呼吸症が高血圧発症や進行のリスクを高めることが報告されています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の種類
空気の通り道である気道が閉塞して起こる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と、脳幹の呼吸中枢からの指令が1時的に途絶えて呼吸が止まる中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)に分けられます。患者数が多いのは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状
睡眠時の無呼吸や苦しそうな大きないびきが特徴的な症状ですが、無呼吸や低呼吸で脳が覚醒してもはっきり目覚めるというわけではないため、ご自分でこうした症状に気付くことはほとんどありません。
自覚症状では、昼間に起こる抵抗できないほど強い眠気、起床時のだるさや疲れ、夜間頻尿、頭痛、集中力低下、抑うつ、倦怠感、胃腸症状などがあります。また、頻繁に口呼吸を行うことでのどの炎症を繰り返しているケースもあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査
主観的な眠気の判断材料になるエプワース眠気尺度、ご自宅で行える簡易検査、入院して受ける終夜睡眠ポリグラフ検査という詳細な検査があります。
エプワース眠気尺度(ESSEpworthSleepinessScale)
主観的な眠気の判断材料として睡眠時無呼吸症候群の可能性を知るために役立ちます。ご自分でチェックして、合計点を計算してください。16点以上が重症とされますが、11点以上は異常な眠気であり睡眠時無呼吸症候群の可能性があるため、受診をおすすめしています。
さまざまな生活の場面での眠気の有無やその状態をチェックします。質問項目ごとに、0~3点のポイントをつけて、その合計点で判断します。
眠ってしまうことはない:0点
時に眠ってしまう:1点
しばしば眠ってしまう:2点
だいたいいつも眠ってしまう:3点
状況 | 点数 | |||
---|---|---|---|---|
1.座(すわ)って読書中 | 0 | 1 | 2 | 3 |
2.テレビを見ている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
3.人の大勢いる場所(会議や劇場など)で座っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
4.他の人の運転する車に、休憩なしで1時間以上乗っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
5.午後に、横になって休憩をとっている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
6.座って人と話している時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
7.飲酒をせずに昼食後、静かに座っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
8.自分で車を運転中に、渋滞や信号で数分間、止まっている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
簡易検査
診察で睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合に、クリニックから検査装置を借りてご自宅で行う検査です。就寝時に顔と手にセンサーを装着して、睡眠中の呼吸や酸素濃度を記録します。返却された検査装置のデータを分析して診断します。
睡眠時、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の平均回数であるAHI(ApneaHypopneaIndex:無呼吸低呼吸指数)によって、睡眠時無呼吸症候群の状態がある程度判断できます。
正常 | 軽症 | 中等度 | 重症 | 最重症 | |
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AHI | 0~5 | 6~20 | 21~30 | 31~50 | 51以上 |
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
入院して行う詳細な検査です。呼吸運動や酸素濃度だけでなく、脳波、眼球運動、心電図、体温、炭酸ガス濃度、いびきの状態などを測定して、正確なデータを得ることができます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療
CPAP療法
睡眠時に起こる気道の狭窄や閉塞を防いで、気道を確保する治療法です。CPAPは睡眠中に装着するマスクから適切な圧力の空気が送り出されて陽圧を保つため、気道が確保されて無呼吸や低呼吸を防ぐ治療法です。専用の装置をご自宅で使用する持続陽圧呼吸療法です。
無呼吸や低呼吸が起こらなくなることで日中の強い眠気や集中力低下などの症状も解消に向かいます。また、合併する心疾患や脳血管疾患、高血圧・糖尿病をはじめとした生活習慣病などの進行抑制につながることも指摘もされています。日本や欧米では、CPAPが閉塞性睡眠時無呼吸の治療法として主流になってきています。
診察の流れ
睡眠時無呼吸症候群の保険診療による一般的な流れです。
- 問診
自覚症状などをうかがいます。 - 簡易検査
検査機器をお貸しして、ご自宅で簡易検査を行っていただきます。就寝時に顔と手にセンサーを装着して、睡眠中の呼吸や酸素濃度を記録する検査です。 - 再受診
検査機器を返却いただいて、1時間あたりに起こる無呼吸と低呼吸の平均回数AHI(ApneaHypopneaIndex:無呼吸低呼吸指数)を基に、診断します。
AHI数値 | 20以下 | CPAP療法ではない治療法を検討します |
---|---|---|
21~39 | 入院してより詳細に調べる標準睡眠ポリグラフ検査を受け、その結果を基にCPAP療法の必要性を判断します | |
40以上 | CPAP療法の導入が適しています |
CPAP以外の治療
生活習慣改善
肥満は閉塞性睡眠時無呼吸の危険因子ですから、カロリーコントロールや運動による減量が必要です。飲酒は筋肉を弛緩させるため、就寝時の無呼吸や低呼吸が起きやすくなります。飲酒はできるだけ控えてください。また、仰向けの姿勢は気道を閉塞しやすいため、横向きで寝ることが有効なこともあります。
外科的治療
適応するケースはあまりありませんが、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術が行われることがあります。
マウスピース装着
就寝時に装着する特殊なマウスピースであごの位置を調整し、気道を確保します。歯科を受診してオーダーメイドのマウスピースを作成する必要があります。適応するケースが限られています。
お気軽にご相談ください
治療が必要な睡眠時無呼吸症候群の方は、未受診の方が85%以上いるとされています。睡眠時無呼吸症候群はご自分の健康にも大きな悪影響を与えますし、重大な事故を起こしてしまうなどご家族の安全にもかかわってくる可能性があります。身近な方からいびきを指摘された場合や、日中の強い眠気、集中力低下、睡眠時間を十分とっているのに疲れが抜けないなどがありましたら、早めにご相談ください。