末梢血管疾患
閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)
手や足に動脈硬化が起こって狭窄や閉塞を起こして、進行によりさまざまな症状を起こします。早期には冷え程度ですが、歩行障害が起こるようになって、さらに安静時にも痛むようになり、壊死や皮膚の潰瘍を起こして激しい痛みをともないます。歩行障害は、少し歩くと痛みで歩けなくなって、休み休みにしか歩けなくなる間欠性跛行を生じます。間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症でも起こる症状なので、見極めが必要です。また、手足に動脈硬化が起こるということは、身体の他の部分でも動脈硬化が進んでいるということですから、症状のある部分だけでなく他の部分にも問題がないかをしっかり確かめる必要があります。
急性動脈閉塞症
動脈が閉塞して急性の循環障害を起こしている状態で、激しい痛みを起こします。治療が遅れると生死にかかわる深刻な疾患です。血栓ができる血栓症と、血管を塞ぐ血栓などの塞栓が運ばれてきて閉塞を起こした塞栓症があります。適切な治療を早めに行わないと足の切断が必要になる可能性がありますし、血流が再開した際に毒性物質ができてそれが全身に回って障害を起こすこともあります。基本的に血栓を取り除く手術が必要ですが、早期であれば血栓溶解療法などによる治療も可能です。ただし、その場合も状態が落ち着いてから人工血管によるバイパス手術が必要になることがあります。
バージャー病
原因ははっきりとはわかっていませんが、発症の大多数が喫煙者です。喫煙によって血管が収縮し、血液が固まりやすくなることがわかっているため、それが発症に関係していると考えられています。50歳未満で喫煙歴があり、膝窩動脈以下の閉塞や動脈閉塞・遊走性静脈炎があって、高血圧症・脂質異常症・糖尿病を合併していない場合で、膠原病陰性という基準で診断されます。状態に応じて基本的に閉塞性動脈硬化症と同様に内服やカテーテル治療、手術などを行いますが、受動喫煙も含む禁煙、保温、運動療法も重要になってきます。発症は、比較的若い男性に多い傾向があります。
下肢静脈瘤
下肢は心臓から遠く、重力の影響を強く受けます。下肢静脈はそれに逆らって血液を心臓に戻さなければならないため、静脈内の弁で逆流を防いでいます。下肢静脈瘤は、この弁が機能不全を起こして慢性的な逆流が起こって静脈瘤ができている状態です。下肢の静脈には筋肉の奥を走る深部静脈と、皮膚と筋肉の間を走る表在静脈があり、下肢静脈瘤は表在静脈にできます。足がだるい、つる、疲れやすい、むくむといった症状以外に、ボコボコした血管が皮膚から透けて見えるといった症状を現すこともあります。保存療法では症状を軽くすることはできますが、治すためには手術が必要です。現在は身体への負担が少ない血管内レーザー治療が主流になっています。
大動脈疾患
大動脈瘤
大動脈は心臓から血液が送り出される一番太い動脈です。大動脈の1部がコブ状にふくらんだ状態が大動脈瘤で、できた場所によって「胸部大動脈瘤」「腹部大動脈瘤」などと名称が変わります。生活習慣病などの影響や、外傷・炎症などによって発症することがあります。動脈瘤が破裂してしまうと身体の中で大出血が起きて、激しい痛みが起きます。急速に悪化してしまうため、早急に適切な治療を受けないと命にかかわります。自覚症状に乏しいのですが、破裂前に現れることのある症状としては、胸部大動脈瘤では飲み込みにくさや声枯れ、腹部大動脈瘤では腹痛や腰痛が続くなどがあります。こうした症状があったら必ず受診してください。
大動脈解離
大動脈は内膜、中膜、外膜の3層構造をしていますが、真ん中の中膜が裂けて血管壁の中に血液が流れ込んでしまっている状態です。生活習慣病やストレス、遺伝などさまざまな要因が重なって発症すると考えられています。前触れなく突然激しい胸や背中の痛みを起こし、血管壁が薄くなるため破裂する危険性も高くなっています。また解離による血行障害でその先にある臓器に十分な血液が届かなくなるため、意識障害や運動障害、腹痛などを起こすこともあります。軽度の場合も慢性期に大動脈瘤を生じることがあるため、適切な治療で急性期を脱した場合も継続的な経過観察が必要です。